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第38話 完成した笑み

작가: marimo
last update 게시일: 2026-03-05 20:31:46

南條沙耶は、ホテルの高層階ラウンジで、夜景を眺めながらグラスを傾けていた。

 氷が静かに触れ合う音が、やけに心地いい。

(……綺麗)

 東京の夜は、いつ見ても嘘みたいに整っている。

 人の感情がどれだけ壊れていようと、光は何も知らない顔で瞬いている。

 テーブルの上に置いたスマートフォンが、短く震えた。

 沙耶は慌てず、ゆっくりと画面を見る。

 ――写真、確認しました。

 それだけのメッセージ。

 だが、十分だった。

(……ええ、これでいい)

 綾乃と神崎和真。

 距離の近い、あの一枚。

 誰が見ても、言い訳の余地はない。

 触れてはいない。

 だが、“触れる直前”に見える。

 沙耶は、その曖昧さが何より重要だと知っていた。

(人は、事実よりも、想像に傷つくのよ)

 九条玲司は、賢い男だ。

 だからこそ、直接的な裏切りには気づく。

 だが、感情の揺らぎには、決定打を持てない。

 ――綾乃は、本当に何もしていないのか?

 ――それとも、もう遅かったのか?

 答えの出ない疑問ほど、人を追い詰めるものはない。

 沙耶は、グラスに口をつけ、ゆっくりと笑った。

(これで、彼は“疑う側”になる)
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